【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
♪ 明かりの灯らぬ家
今日、久しぶりに柚姫ちゃん、いや柚と会った。
一週間ぶりに会った彼女は、やっぱり変わらない。
本当の俺は、心の奥深くが鉛のように重くて冷たくて、夜のような闇に覆われている。
それを、何重にも何重にも重ねた鎧で何年間も隠し続けてきた。
柚は、そんな鎧をあっさりすり抜けて、その奥底を何か温かいもので満たしてくれる。
本当に、不思議な子だ。
今も運転する俺の横で、困った顔をして目を泳がせている。
時折すれ違う車のライトで照らされたその顔は、赤く色づいていたように思えた。
…まいったな。
この俺が
女の子に本気になるなんて。
本気で欲しいと思い始めてるなんて。
自身に嘲笑すると、柚は不思議そうな表情を俺に向けてきた。
なんでもないよ、と笑って返す。
すると、今まで赤だった信号は青に変わり、俺は再び車を走らせた。
そんなとき。
ピリリリリリ…
…またか。
再び鳴り響く携帯に、俺は軽く眉をひそめた。
出なくてもわかる。
この着信音は、あの人だから。