【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐

♪ 明かりの灯らぬ家






今日、久しぶりに柚姫ちゃん、いや柚と会った。





一週間ぶりに会った彼女は、やっぱり変わらない。






本当の俺は、心の奥深くが鉛のように重くて冷たくて、夜のような闇に覆われている。





それを、何重にも何重にも重ねた鎧で何年間も隠し続けてきた。







柚は、そんな鎧をあっさりすり抜けて、その奥底を何か温かいもので満たしてくれる。






本当に、不思議な子だ。







今も運転する俺の横で、困った顔をして目を泳がせている。






時折すれ違う車のライトで照らされたその顔は、赤く色づいていたように思えた。






…まいったな。






この俺が






女の子に本気になるなんて。







本気で欲しいと思い始めてるなんて。






自身に嘲笑すると、柚は不思議そうな表情を俺に向けてきた。





なんでもないよ、と笑って返す。






すると、今まで赤だった信号は青に変わり、俺は再び車を走らせた。







そんなとき。







ピリリリリリ…







…またか。






再び鳴り響く携帯に、俺は軽く眉をひそめた。







出なくてもわかる。







この着信音は、あの人だから。






< 116 / 450 >

この作品をシェア

pagetop