【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
やがて小道に入ると、ゆっくりと車を走らせながら柚に道を尋ねて車を進めた。
そうして着いたのは、閑静な住宅街のわりと大きな一軒家。
だけど…
「柚…?家、真っ暗だけど…」
柚の家には、明かりが一切付いていなかった。
夜の闇に紛れてひっそりとしている。
「ご家族の方は、仕事?」
俺の問いに、柚は顔を伏せたままコクリと頷いた。
仕事…って、ご両親とも?
もう10時すぎだっていうのに…。
「そう…。鍵はある?」
ゆっくりと頷いた柚に、俺はにこりと笑いかけた。
「それなら大丈夫だね。」
車から降りようとシートベルトを外した時、服の袖を引かれた。
「ん?」
振り返ると、ボードを手にした柚がまた何か書いていてくれた。
書き終わるのを黙って待っていると、くるりと手首を返して見せてくれる。
“今日は、あたしこそありがとう。すごく楽しかった。”
そうやって照れ臭そうに笑う彼女がすごく可愛くて、今すぐ抱きしめたいと思わされた。