【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「柚が喜んでくれてよかったよ。」
ごく自然に微笑み、車を降りて反対側へと回る。
助手席側のドアを開けると、困ったような顔をしつつも柚は車から降りた。
最後に、にっこりと笑ってペコリと頭を下げる柚。
きっとこれは、ありがとうという意味。
「いえいえ。さ、家に入りなよ。疲れたでしょ?また明日、会おうね。待ってるから。」
うん、と頷くと、やや小走りで柚は玄関へと向かう。
そうして、鍵を開けて中に入ろうというとき
くるりと振り返って、俺の顔をじっと見つめてきた。
柚のことだから、きっと俺が帰るのを見送るつもりなのだろう。
「柚が家に入ったら、俺も帰るよ。」
少し声を張り上げると柚は小さく頷いて、最後に手を振って暗い家へと消えていった。
それから少しして、一階の電気が付いた。
それを見届け、俺も車に乗り込む。
それにしても、柚の家は複雑な環境なのだろうか。
家族はちゃんと帰ってきているのか?
明るく見えて、声以外にも何かを背負っているのかもしれない。
柚の笑顔を思い出しながら、俺はそんなことを考えていた。