【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
音の方を見てみると、柚の家の扉が大きく開いていて、大慌てで柚が飛び出してきたのが見えた。
扉が閉まると柚はそのまま扉を背にしてへなへなと、足を抱えて座り込んでしまう。
その尋常じゃない様子に、俺も慌てて車から降りた。
「…柚!!」
俺の呼び掛けに、はっと顔をあげる柚。
「―――っ」
俺の姿を認めると、パタパタと駆け寄ってその勢いのまま俺の胸へと飛び込んできた。
「ゆ…っ」
背中に手を回し、無防備にも俺にぎゅっと抱きつく柚に、ドキッと心臓が高鳴ったのがわかった。
「…柚?」
それがばれないよう、平然を装って声をかけると、柚は涙をたくさん溜めた瞳で俺を見上げる。
そんな顔に、一瞬だけ理性が飛びかかったが何とか抑え込んで、柔らかく微笑むと頭を撫でてあげた。
「どうしたの?」
すると柚は、震える手でゆっくりと家を指差す。
家の中で何かあったらしい。
キッと気を引き締めて、家を睨み付けた。
そして未だ俺の胸の中で震える柚の背中をポンポンとそっと撫でて、肩を優しく押して体を離させた。