【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
不安そうな顔をする柚に、いつものように微笑んで見せる。
「大丈夫だよ。ここで待ってて。」
その言葉に、柚は首をふる。
そうして、俺の服の裾をちょいっと掴んだ。
どうやら、ついてくるらしい。
それでも、手が震えているのが見てとれた。
「柚、とりあえず何があったの?」
少し迷ったが意を決したように、柚は口を開く。
口パクで伝えられた言葉は、“いた”だった。
…いた?
何がいたんだろう?
まさか、泥棒か…?
だったらなおさら、柚を着いてこさせるわけにはいかない。
「柚、落ち着いて。危ないから君は来ちゃダメだよ」
俺が真剣にそう言うと、柚はきょとんと目を丸くした。
そして、また口を開く。
“ご、き、ぶ、り”
ごきぶり?
ゴキブリ!?
「いた、ってゴキブリのことだったの?」
また泣きそうになりながら、柚はそっと頷く。
どうやら、柚はゴキブリが苦手らしい。
俺は、ホッとして力が抜けた。