【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「まぁ、そう言うと思ったよ。」
俺がふっと少し自嘲気味に笑った時、なんとも上手いタイミングでお盆を持った柚がリビングに現れた。
聞かれたか、と心配したが柚の様子からして聞いていないようだ。
「おっ、サンキュー。」
京輔くんが、嬉しそうに笑うと柚もにこりと笑う。
そんな親しそうな雰囲気に、なんだか胸の奥がモヤモヤとしていた。
「おっ、美味そうじゃん」
テーブルの上に並べられたのは、ほこほこと湯気をあげるシチューだった。
「へぇ、柚が作ったの?」
俺が尋ねると、柚は少し照れ臭そうにして頷いた。
ちゃんと俺の分まであるシチューはホントに美味しそうだ。
「いただきます」
スプーンで口に運ぶと、口一杯に広がる甘くて優しい味。
すごく美味しかった。
そして3人でそれをゆっくりと平らげ、時刻はすでに11時を回っていた。
「俺、もうそろそろ帰るよ。」
「じゃあ俺も帰る」
俺が言うと、京輔くんも立ち上がった。