【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「―――…静かにして」
どくん…っ
甘い吐息と共に吐き出されたその人の声が、あたしの耳を撫でた瞬間
心臓が不規則に動いて、甘い痺れが全身を駆け抜けた。
「―――…っ」
頭がぼんやりとして、体に力が入らない。
知らない男の人とこんなに密着しているというのに、逃げられもしない。
声だけで、
何気ないたった一言で、囚われた。
更に片腕で、ぎゅっと強く抱き締められて心臓まで締められたような錯覚に陥る。
聞こえるのは、早鐘のように脈打つあたしの心音と、彼の胸板から伝わる緩やかな心音だけだった。
…あれ?
そこであたしは、ハッと我に返る。
さっきまですぐ後ろで聞こえていたはずの足音がしない。
男の人の怒声も、荒い息遣いも、何も。
あるのは、いたって静寂だった。
そのことに気付いた時、あたしを包み込んでいた体温はそっと離れる。