【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
♪ 天才も風邪をひくらしい。
ふぅ…。
あたしは、何度目になるかわからないため息をそっと溢した。
今あたしは、原田さんがオーナーを勤めるライブハウス、“リコール”に来ている。
学校帰りにここに来るようになって、もう一週間になる。
原田さんや、愁生さん、李織さん優兄にはいつも会えるのに、未だ暁くんには会えていません。
「柚姫ちゃん、ため息なんかついちゃって。せっかくの可愛さが台無しだよ?」
そんなとき、苦笑いを浮かべた愁生さんがあたしの頭を撫でてそう言った。
それを見ていた李織さんは、優兄のドラムスティックで愁生さんの頭を小突きながら、いつもの眠そうな目のまま、無機質に口を開く。
「愁生、わかってない。女の子の憂い顔…、すごく綺麗でそそられるのに。」
そそられ…っ!?
「お前はなんつーことを口走るんだ。柚姫ちゃんびっくりしてるだろ。」
あたしがビックリして硬直していると、横から助け船をだしてくれた原田さん。
そのことにホッとしつつ、李織さんに苦笑いを向けると、何故か頭をなで回された。
「無自覚…、無防備…。このタイプは、これだから困る…。」