【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
ってかとりあえず、お礼言わなきゃだよね…。
ふと我に返り、カバンからマグネットボードを取り出す。
それは、先に磁石が付いたペンで専用のボードに書き込めば字が書けるという優れものだ。
ボタンを押せば文字は消え、何度でも利用できる。
話すことが出来ないあたしにとって、必需品だった。
あたしがボードを取り出すのを見ていた男の人は、ん?というような不思議そうな顔をしてそれを見ていた。
あ、待っててくれるんだ…。
彼が、じっくり待っててくれることに安堵しつつ、コツコツとペンを走らせた。
“助けてくれて、本当にありがとうございました”
そう書かれたボードを、彼の目の前に突き出す。
「―――…助けてくれて、本当にありがとうございました…?」
それを読み上げる彼は、にっこりと優しい笑顔を浮かべた。
「いえいえ。ご丁寧にありがとう。」
その言葉にホッとして、あたしも表情を緩める。
すると彼は、ちょっと首をかしげてボードを指差した。
「ねぇ、これって何?」