【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
♪ キズアト
ああ、くそ…。
ようやく叔父たちから解放され、飛行機で日本へ帰ると
運悪く風邪を引いてしまったらしい。
イギリスの実家にいる間、心が腐敗したように重苦しかった。
おまけに、俺を呼びつけた本当の目的は…。
…考えるのも嫌になる。
こうなってしまっては、彼女と一緒にいることは叶わない。
離れられなくなる前に、距離を置かなくてはいけないな。
柚…、柚姫ちゃんだけでなく、愁生や李織や優輔、オーナーとも。
残された猶予は、大学を卒業するまで。
今は、それまでの自由を楽しむか。
ふぅ、と息を吐き出して小さく笑う。
でも、よかったこともある。
風邪をひいたお陰で、柚姫ちゃんがお見舞いに来てくれた。
俺のためにオーナーが作ってくれたらしいお粥をくれ、ハーブティまで淹れてくれた。
欲を言えば、お粥も柚姫ちゃんの手作りが良かったけど。
そんなことを思いながら目を閉じていると、微かに聞こえ来たのはピアノの音だった。