【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
彼の質問に、やっぱり筆談でしか答えることが出来ず、再びペンを走らせる。
“あたし、声が出ないんです。だから、これでいつも会話してるの。”
それを読んだ彼は、そうなんだーと呟くと無邪気な笑みで言う。
「ねぇ、ちょっとこれ貸して。」
あたしは、とりあえず文字を消してそれを渡した。
彼はしばらく興味深そうにそれを眺めた後、楽しそうにコツコツとペンを走らせた。
何を書いてるんだろう…?
覗き込もうかと思った時。
いたずらっ子みたいな、人懐っこい笑顔を浮かべて彼はあたしの前にマグネットボードを差し出した。
そこには、お世辞にも綺麗とは言えない字で
“君の名前は?”
って書いてあった。
びっくりして、もう一度彼の顔を見上げる。
そしたら彼は、ただただニコニコ笑うだけで言葉を発しようとしない。
…どうしよう。
なんか初めてだ、こんなの。
自然と温かくなる胸が、なんだか懐かしく思えた。