【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
視界の外で、クスクスと暁くんが笑っているのがわかった。
うぅ、恥ずかしい…
「…ねぇ、柚。」
そのとき、ふいに話しかけてきた暁くん。
まだ恥ずかしかったけどおずおずと顔を上げれば、楽しそうな暁くんはいつもの質問をしてきた。
「学校は楽しかった?」
あ…。
いつもいつもされるこの質問。
友達もいないあたしにとって、なんの面白みもない学校生活だったけれど、いつも返す答えは同じ。
“楽しかった、と頷く”こと。
でもそれは、暁くんを心配させないための些細な嘘で。
友達がいないから楽しくないなんて、言えるわけがない。
でも、今日初めて。
“楽しかった”と、本当のことを伝えた。
「そう、よかった。」
あたしの答えに対して返ってくる言葉も、いつもと同じ。
でも今日は優しく笑って、どこか自分まで嬉しそうに言ってくれた。
暁くんのお陰で変われたからだよ。
ありがとう。
いつか、そう伝えられたら。
出来もしないことを切に願う、あたしがそこにいた。