【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
うぅ…、なんかしてやられた感じ。
だってあんな甘い声で囁かれて、カッコいい顔に間近で微笑まれたら誰だってああなる。
最近の暁くん、なんか変だよ。
ああいうのが、多くなった。
可愛いとか、色々甘い言葉を囁いてくる。
ただあたしの反応を見て、からかって楽しんでるだけなんだってわかってても、心は裏腹に暁くんに惹かれてゆく。
はぁ、とそっとため息を吐き出してピアノに歩み寄る。
もう二度と弾くことはないであろう、ピアノの黒い表面を指でゆっくりとなぞった。
ツルツルとしていてひんやりとした感触が、なんだか名残惜しい。
…あたしも案外、執念深いな。
もう歌わない、音楽にも触れないと三年前に誓ったのに。
ごめんね、アキちゃん。
もう、弾かないから。
歌わないから。
そっと、ピアノから指を離したときだった。
「…もう、弾かないの?」