【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
え…?
突然正面から聞こえてきた声に驚き、すぐにその声の方を見る。
そこにいたのは、気だるそうにピアノの上で頬杖をつく、李織さんだった。
ピアノを挟んでいたとは言え、向こう側にいる李織さんに気付かないなんて…。
いつからいたんだろう。
「…ねぇ、聞いてる?」
李織さんは、なんの反応も示さないあたしに痺れを切らしたのか、かすかに眉を寄せて再度尋ねてくる。
“ごめんなさい、なんでしたっけ?”
慌ててボードで聞き返せば、別にイライラした様子も見せずにもう一度言ってくれた。
「…もう、弾かないの?って聞いたの。弾かないの…?」
ああ、そうだったっけ。
“弾きません。”
きっぱりと答えれば、李織さんは興味無さそうに、ふぅーん…とだけ言った。
李織さん、なんの意図でこんなこと聞いたんだろう…。
…まるであたしの覚悟を見抜いているみたい。
“どうして、こんなこと聞くんですか?”
「…“どうして”?別に、…なんとなく。」
なんとなく…って。
やっぱり、変わった人だなと微苦笑する。
「…ただ」
ただ…?
「ただ、あんたが寂しそうだったから。」
寂しそう…?