【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「柚はさ、いいよねー」
「え?何が?」
アキちゃんは、ふぅとため息をつくとあたしへ優しく視線を向けた。
「絶対音感、もってるんだから。」
「んー、そうかな」
絶対音感。
音を聞いただけで、即座に音名の言える能力のこと。
鍛えて修得する人もいれば、生まれつき持っている人もいる。
あたしは、後者の方だった。
「それであんなに歌が上手いんだから、まさに“類い稀なる才能”ってやつだよね」
「誉めすぎだよー。あたしなんかより上手い人は、たくさんいるんだから」
すると、アキちゃんはふと目を伏せて小さく言った。
「…もし、歌手デビューの機会があって、あたしには手が及ばなかった時は、あんた一人ででもデビューしてね」
「何言ってんのっ!あたしは、アキちゃんと一緒じゃないと歌えないんだからっ」
即答したあたしに、アキちゃんは一瞬驚いたような表情をしたけど、すぐに
「…そっか、ありがと。」
そう言って、にこっとアキちゃんは柔らかく笑った。