【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
後ろから、yesと聞こえてすぐ初老の男性が姿を現した。
「(アキラ、お前はもちろん邪魔をしないよね?)」
薄く笑ったエドガーさんに、暁くんは悔しそうに唇を噛む。
その初老の男性は、ブツブツと何かを沙夜ちゃんに呟くと頭を下げて道を譲った。
そんな沙夜ちゃんは、何もかも諦めたみたいに目を伏せて店を出ていこうとする。
沙夜ちゃん、行っちゃうの…!?
咄嗟に沙夜ちゃんの腕を掴むと、沙夜ちゃんは寂しそうに笑った。
「ゴメナサイです、ユズ。ばいばいデス。」
そんな…。
せっかく仲良くなれたのに。
もっともっと、たくさんお喋りしたかった。
行かないで、と首を振ろうとした時。
ふわっ、と温かい体温に包まれた。
沙夜ちゃんからは、暁くんとどことなく似た匂いがした。
「ユズ、アキラのこと、おねがいしますデス。アキラはたくさん、たくさんせおってます。でもひとつもアキラわるくない。しんじてあげてクダサイ。アキラにとって、ユズはすくいになる。」
その言葉が、どんな意味を持つのか深くはわからなかった。
けど、あたしはいつか知ることを信じて何度も頷いた。
「ユズ、しんぱいないデス。ワタシ、じぶんのhomeかえるだけ。ちょっとした“いえでしょうじょ”だったデス。きょうまで、Thank Youデシタ。また、あえるですよ。」
それだけ言い残し、初老の紳士に連れられて沙夜ちゃんはここを後にした。