【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「(あーらら。弟の友人にも嫌われちゃったー。そうそう、君に一つ忠告してあげるよ。それに関わると不幸になるから、気を付けることだよ。)」
「(余計な忠告をどうもありがとう。)」
「(それと撤回はしないから。じゃあね、お熱い弟のご友人?)」
エドガーさんは終始爽やかな微笑みを絶やすことなく、二人から踵を返した。
ドアに向かう途中、エドガーさんはあたしの存在をやっと再認識したらしく、くつりと紳士的な笑みを浮かべる。
「(またね、小さなレディ。)」
さっと手を取られ、まるで童話の中の王子様のようにあたしの手の甲に唇を寄せた。
それが触れる前に、パシッと手を振り払って出来る限り威圧的に彼を睨んだ。
それを見てもちっとも動揺するわけでもなく、灰色がかった青色の瞳を柔らかく細めて、優雅な足取りで店を出ていった。
「なん、だったの?あの金髪碧眼…。」
しんと静まり帰った店内に、原田さんの間の抜けた声が響く。
「李織、どうして…」
暁くんの問いかけに、李織さんはいつものように淡々として答えた。
「別に。ムカついたから言っただけ。」
「ありがとう、李織。」
「…ん。」
それだけで満足したのか、疲れた…とぼやいて、李織さんはまたソファーの上にうずくまったのだった。