【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「その度によく、“ボクおとこのこだもん”って泣いて…」
「…原田さん、止めてくれる。」
ひやりとした冷たい声が突然後ろからしたと思うと、冷淡な瞳で真っ直ぐに原田さんを睨む李織さんがそこにいた。
さっきまで寝てたはずなのに、と思う。
「あっれー、李織くん起きてたの?」
「…怪しい会話が聞こえたから、起きた。勝手に人の昔話、しないでくれる。」
いつものように無機質で抑揚のないしゃべり方なのに、威圧感が半端なくて。
表情が凍った原田さんの手からは、まだ火をつけたばかりのタバコが、ポロリと落ちた。
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「…で。妹は大丈夫なの。」
李織さんの疑問は、あたしもずっと気になっていたことだ。
許嫁を無理やり決められてしまった沙夜ちゃんはどうなるのだろう。
「いや、沙夜自体は大丈夫だと思う。なかなかずる賢いし、器用だから上手くかわすと思うよ。」
ホントに…?
「今までにも何度もあったみたいだよ。さすがに今回は我慢ならなかったんだろうね。何せ相手は30過ぎのおじさんらしいから。」
クスッ、とまるで他人事のように笑う。
暁くんのその微笑みを見て、はっと頭の中で閃く。
エドガー・オルドリッジや沙夜ちゃんが誰かに似てると思ったのは、どっちも暁くんに似てるからなんだ。
ふわり、と誰もを惹き付ける微笑みは確かにあそこの遺伝だなとひっそりと思った。