【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
♪ 哀しい悪意
もうそろそろ夏がやってくる。
日に日に日射しも強くなり、ジリジリと肌を焼く日が増えてきた。
クーラーなんて完備されてない教室は、当たり前のように窓が全開だ。
風でパタパタ動き回る、うっとうしいとも感じるカーテンの隙間から、あたしは遠くを眺めていた。
もうどのくらいそうやって悩んでいるのか、すでにわからない。
自然とため息が零れた。
あたしを悩ませているのは、先日沙夜ちゃんが教えてくれたことについてだ。
来週の木曜日、暁くんの二十歳の誕生日。
『いわってあげてクダサイ。』
沙夜ちゃんはそう言ってすぐ、日本を発った。
今思えば、それはまるで自分は祝えないと言っているようだった。
もうすぐ迎えが来ることを、沙夜ちゃん自身わかっていたのだ。
…来週の、木曜日。
ちらりとカレンダーを眺めて、再びため息が零れた。
もうあと少ししかない。
手作りは間に合わないから、必然的に買うことになる。
そこが問題だ。
何を買ったらいい?
男の人は、暁くんは何をもらったら喜ぶ?
…わからない。
暑さと悩みで脳がオーバヒートを起こしそうだ、とあたしは机に突っ伏した。
京ちゃんや優兄には、毎年手作りのお菓子をあげていた。
でも、せっかくの二十歳の誕生日なのだからもっといいものを贈りたい。
ああ、こんなことなら沙夜ちゃんに好みを聞いておくんだった…。