【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「まぁ冗談はさておき、何がいいかなぁー。」
まだ季節は夏だから、定番のマフラーとか防寒グッズは使えない。
…ダメだ、思い付かない。
「あ、いた。何やってんの、優輝。」
ふいに聞こえた声に、現実に引き戻される。
そこにいたのは、見たことのない男子だった。
柔らかそうな髪をくしゃくしゃにして、運動部を思わせるような焼けた肌。
優しく微笑んで、ゆっくりとした足取りでこちらに歩み寄ってきた。
「…結翔(ユイト)っ!」
彼を見た瞬間、ぱぁっと顔を輝かせる優輝ちゃん。
ああ、彼が噂のイケメンな彼氏か、とすぐにわかった。
「…この子は?見たことないけど、新しい友達?」
結翔さんは、抱き付いた優輝ちゃんの頭を撫でながらあたしに目を向ける。
「そうなのっ。此花柚姫ちゃん、最近仲良くなったの。」
「へぇ、この子が噂の。」
噂?
「噂って何よ?」
よくない噂だと思ったのか、不満そうに結翔さんを睨む優輝ちゃん。
「怒んなよ。悪ィ噂じゃねーよ。」
そしてもう一度あたしに目を向けて、聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやいた。
「…大したことねーじゃんな。優輝のが可愛い。」
…はっ?
「んっ、何よ?なんて言ったの?」
「いいや?なんでもない。」
あたしの存在なんて気にする風でもなく、ぎゅーっと優輝ちゃんを抱き締める結翔さん。
あ、あたし邪魔だよね…。