【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「じゃあ、来週の木曜日だね。楽しみにしてる。どこか希望があったらメールしてね。」
車で家まで送ってくれた暁くんに手を振り、いつものように暗い家に入る。
制服から部屋着に着替え、夕食を作って、ご飯を食べて、お風呂に入って、テレビを見ながら、暁くんが買ってくれたロールケーキを食べた。
そんな平凡な行動を終え、部屋のベットに寝転ぶ。
来週の、木曜日。
ぼんやりと天井を眺め、来週の木曜日のことを考えるだけで自然と口元が緩んだ。
くるんっと寝返りをうつと、ベットの上に置かれたイルカのぬいぐるみが目についた。
水族館で暁くんが買ってくれた、おっきなイルカのぬいぐるみ。
可愛くて、可愛くて。
あれからずっと、このぬいぐるみは宝物だ。
引き寄せて、ぎゅっと抱き締める。
一瞬、暁くんの甘い匂いがしたような気がした。
あたし、今までずっと暁くんにもらってばかりだね。
イルカのぬいぐるみも、ロールケーキも。
楽しく笑うことも、友達を作ることも。
…誰かをこんなに想う気持ちも。
暁くんと出会わなければ、忘れたままだった。
だから、暁くんにお返しする。
大好きな、暁くんに。
その日、あたしはイルカのぬいぐるみを抱き締めて深く眠りについた。