【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
鍵は開いてるし、家には柚しかいないから勝手に上がっても問題ないと教えられた。
上がるのは二度目になる、柚の家。
前回は確か、柚の家にゴキブリが出たときだったか。
京輔くんが言うには、今は自分の部屋にいたらしい。
階段を登って、“柚の部屋”とプレートが下げられた扉の前で一呼吸おく。
ゆっくりとノックをして、返事が返ってくる前に部屋に足を踏み入れた。
女の子らしい、けど飾り気のない部屋だった。
ベッドがあり、机があって本棚とクローゼットがあるだけの部屋。
クリーム色を基調としていて、柚らしいと言えば柚らしかった。
女子高生らしくなく、アイドルのポスターもなく、マンガもない。
そんな部屋でベットに寄り掛かり床の上でうずくまる、探していた少女の姿があった。
見覚えのある、水色のイルカのぬいぐるみを抱き締めて。
柚…。
人が入ってきたというのに、顔を上げもしない。
興味がないようだった。
半袖のTシャツから見える腕は、わずかな間でかなり細くなったように見えた。
どうして、こんなになるまで気が付かなかったのか。
何で柚がここまで苦しまなければいけないんだ。
この華奢な小さな身体に、一体どんなものを背負っているんだ。
覚悟を決めて、柚のそばまで歩み寄った。