【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐







ぎゅっと強く抱き締められる。




あたしも、力いっぱい暁くんに抱きついた。





いい香りのする暁くんの肩口に顔を埋めて、日が暮れるまで泣き続けた。





ああ、あたしってこんなに泣けたんだ。






他人事のように、頭の片隅で感心してた。










***********








「…落ち着いた?」





暁くんの声に頷いて、名残惜しい体温から離れた。





途端に、身体が冷える。





なんか、寒いや…。





暁くんの温かさが欲しくて、袖をきゅっと掴む。





「…ん?」





あたしの意図を察してくれたのか、暁くんはそっとあたしの腰に手を回して引き寄せる。





ためらいがなくなったからなのか、暁くんの顔を見つめるだけで素直な気持ちが溢れだしてくる。





好き、好き、好きなの。





でも、声はでない。





それは心のどこかで、まだ自分を許せてないからだとわかる。





たぶん声は、このさき一生出ない。





そんなことはわかってるのに。





想いを伝えたくて。





好きと、言いたくて。





でも、言えなくて。






文字にしてしまえば、簡単に伝わってしまうけれど。





そんな簡単に伝えてしまっていいほど、軽いものじゃない。






伝えたい、でも言えない。






だから、一生この想いを伝えることはない。






あたしの声は、二度と出ないから。






そっと、暁くんの胸を押して身体を離す。






「…柚?」





にこ、と小さく笑って立ち上がる。





ありがとう、口パクでそう言ってから部屋を出ようとしたその時…。








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