【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
ぎゅっと強く抱き締められる。
あたしも、力いっぱい暁くんに抱きついた。
いい香りのする暁くんの肩口に顔を埋めて、日が暮れるまで泣き続けた。
ああ、あたしってこんなに泣けたんだ。
他人事のように、頭の片隅で感心してた。
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「…落ち着いた?」
暁くんの声に頷いて、名残惜しい体温から離れた。
途端に、身体が冷える。
なんか、寒いや…。
暁くんの温かさが欲しくて、袖をきゅっと掴む。
「…ん?」
あたしの意図を察してくれたのか、暁くんはそっとあたしの腰に手を回して引き寄せる。
ためらいがなくなったからなのか、暁くんの顔を見つめるだけで素直な気持ちが溢れだしてくる。
好き、好き、好きなの。
でも、声はでない。
それは心のどこかで、まだ自分を許せてないからだとわかる。
たぶん声は、このさき一生出ない。
そんなことはわかってるのに。
想いを伝えたくて。
好きと、言いたくて。
でも、言えなくて。
文字にしてしまえば、簡単に伝わってしまうけれど。
そんな簡単に伝えてしまっていいほど、軽いものじゃない。
伝えたい、でも言えない。
だから、一生この想いを伝えることはない。
あたしの声は、二度と出ないから。
そっと、暁くんの胸を押して身体を離す。
「…柚?」
にこ、と小さく笑って立ち上がる。
ありがとう、口パクでそう言ってから部屋を出ようとしたその時…。