【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
ただ、穏やかだったのは学校に着くまでだった。
見慣れた校門が見えた途端、どうしようもなく不安に襲われる。
暁くんは、優輝ちゃんがあたしを心配してくれていたと言っていた。
暁くんを信じていないわけではないけど、本当のことだったのか、怖い。
しかしここまで来てしまった上、一生逃げるわけにもいかない。
ドクドクと暴れる心臓を必死に抑え込む。
3階の自分のクラスのドアを静に開けると、一瞬何人かの視線を感じたが、それもすぐに散った。
ただ、窓側の席の彼女だけは、縫い付けられたように視線がこちらに固定されたままだった。
大きな目をいっぱいに開いて、フリーズしてしまったかのようにこちらをじっと見つめる優輝ちゃん。
久しぶりの友人の姿にホッとしたのと、微かな恐怖が同時に襲う。
それでもぎこちなくではあったのだけど、精一杯微笑みを向けた。
用意していた言葉は、既に手にある。
それを見せるために、一歩近付いた時だった。
「…柚ちゃんっ!」
あ…
それまで固まっていた優輝ちゃんは、わずかに顔を歪め、勢いよくあたしに駆け寄ってきた。
そして、ぎゅっと力強く、抱きつかれた。
カタンッ、と床にボードが落ちた音が遅れて耳に届く。
こらえたような嗚咽と鼻をすする音と、小さく震える肩が彼女の感情を明確に表していた。
優輝ちゃん、あたしの為に泣いてくれてる…?
ホントだったね、暁くん。
あたし、もう1人じゃないや。
目頭が熱くなりながらも、あたしは嬉しくて小さくはにかんだ。