【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
そんな彼女が、どんな思いで柚を責め立て、苦しめたのかは想像に容易い。
そんな話を京輔くんから、聞いた。
「あの…どうかしたんですか…?」
黙り込む俺の顔を、下から目を潤ませて上目遣いで覗き込んでくる。
柚がやってくれたなら、理性が飛びかけそうなものだが、彼女がやっても吐き気を催すだけだ。
「…もしかして、どこか具合でも悪…」
そっ、と俺の手に触れてきた彼女の手をすぐに払う。
「…離れてくれる。」
「え?あの、急にどうし…」
「話をさっさと始めたいんだ。柚が待ってるからね。」
「柚…?」
眉間にシワを寄せながら、一歩二歩と俺から離れる春日井 桃佳。
「そう、柚姫。知ってるでしょ?」
「話って…」
「何、まさか告白でもされると思った?」
俺の言葉が図星なのか、彼女は顔を赤くして唇を噛んだ。
「…っ。い、意味がわかりませんけど。」
「へぇ、しらを切る気?」
「…あの子に、何吹き込まれたか知りませんけど、あの子のこと信用しない方がいいですよ。」
「ふぅん、どうして?」
何を言い出すかと思えば、そんなこと。
面白そうだから乗ってやると、彼女は一瞬ほっとした表情を見せ、またすぐに気弱そうに眉根を下げた。
「あの子、声が出ないでしょう?だから、それを利用してみんなから同情を集めてるんです…。…友達を殺したくせに、被害者面してるんです。」
被害者ヅラ、ねぇ。
「あなたも、騙されてるんですよ!男の人に媚びるんです、昔からそう!」
「それは知らなかった。」
「どうせあなたに、あたしがひどいことを言ったとでも言ったんでしょう?違うんです、あたし何も…」
ああ、なんだこの茶番は。
「あたしの方があの子にたくさんひどいこと言われて…。才能ないからバンド辞めろとか、瑛に近づくなとか、ホントにひどいこと…」
「…ぷっ。」
ダメだ、もう限界だ。