【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「…あーあ、なんなのよ。」
春日井桃佳は、つまらなさそうにため息をついた。
ため息をつきたいのはこっちだ、という言葉は飲み込んでおく。
「せっかくいい男が声をかけてきたと思ったらこういうこと。言っとくけどあたし、あの子のこと許さないわよ。」
そして、ギロッと鋭く俺を睨み付ける。
「あたしからすべてを奪った罰よ。あの女なんか、一生苦しめばいい。そうよ、あの女が事故で死ねばよかったのよ。そしたら瑛はあたしの友達でいてくれたのに!あの女さえいなければ、あたしは…」
「…それ以上自分勝手なことをほざくと、容赦しないよ。みんな柚のせいか。まったく、見上げた根性だな。イライラする」
ひやりとした言葉が、すらすらと出てくる。
その冷たさにか、春日井 桃佳はかすかにたじろいだ。
「君は正義という名目で、苦しむ子を更に苦しめるつもりか。そんな建前だけの感情で、これ以上柚を苦しめるな。」
こんなに長い間、1人で耐えていたなんて。
誰にも言えず、ただ自分の罪をずっしりと、あの小さな身体に背負こんで。
「あの子だって、君と同じように、いやそれ以上の苦しみを受けた子だ。それを何故、君たちが寄ってたかって責めることが出来る。」
自分のことのように、静かな怒りが昔のように心を占める。
―――あなたは、何も悪くないわ。悪いのは、あなたを責めることでしか自分を癒せない、心の弱い人たちだわ。―――
昔、そう言って俺を重い枷から解き放ってくれた彼女の言葉が甦る。
ずい、と春日井 桃佳ににじり寄り、壁際に追いやる。
その時初めて春日井 桃佳の瞳に怯えの色がよぎった。