【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「柚は3年間も自分を責め続けた。声だってまだ失ったままだし、音楽に触れるだけでひどく哀しそうな顔をする。」
柚がピアノを弾いていたときの、あの哀しそうな顔は今も忘れることができない。
「この先ずっと、自分を許すこともないだろうね。柚はその苦痛を生涯背負う。そんな彼女を自分の為に責めるなんて、君こそ罰を受けるべきだ。」
辛そうに、だけど懸命に打ち明けてくれた柚。
それが、どれほど重く感じているかを物語っていた。
「君に柚を責める権利はない。卑怯な真似はしてくれるな。」
卑怯、という言葉に黙り込む春日井 桃佳。
本来なら、目的はここまでのはずだった。
しかし…
「…そうそう。」
怒りが、収まらなかった。
ダン!!
壁に寄りかかっていた春日井 桃佳が顔を上げた瞬間、すぐ横の壁を思いっきり足で踏みつけるように蹴った。
そのときの勢いが風を起こし、彼女の髪を巻き上げたとき、ようやく事態を把握して真っ青になる。
それをみて、くつりと笑った。
「俺の大切な子のほっぺた、随分派手に殴ってくれたみたいだね。顔にキズでも残してしまったら、どう責任取ってくれる?」
ビクリ、と震える春日井 桃佳。
何も言わないのが癪に触り、有無を言わさない勢いで顎を掴みあげて、真っ正面から冷たく睨む。
「俺が今、どれだけムカついてるかわかる?ああ、わからないよね?わからせてあげようか?」
人の気持ちがわからない君にわかるわけないもんね?と、冷たく笑うと彼女はとうとう涙を浮かべて首を横に振る。
「…君、女の子で良かったね。」
「え…?」