【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
とりあえず店を出るときにすることは、伝票を持つこと。
テーブルの端に、それを入れるケースがあるのが一般的だ。
あたしは、そこに目を向ける。
…しかし、ケースを残して伝票はどこにもない。
おかしいなと、四隅を確認するけど、やっぱりない。
「柚姫ちゃん?どうかした?」
くるりと振り向き、事情を伝えようとした時だった。
きょとんとした顔の暁くんがその手に持っていたのは、紛れもなく伝票。
い、いつ取ったんだろう…。
気付かなかった…。
「ん、あれ。もしかして、これ探してたとか?」
こくこくと頷く。
するて暁くんは、苦笑した。
「ごめんね。でも、そういうのって男の役割だから。」
そうなの…?
そんな意味を込め、首をかしげながら暁くんを見る。
「そういうもんなんだよ。」
やっぱりあたしの視線に気付いてくれた暁くんは、爽やかな笑みをたたえて言った。
「ほら、行こ。」
あたしはまた、こくりと頷いて暁くんの後を着いていった。