【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐




「…ちょっとね、酔いを冷ましてたんだ。」



そう言って、再び視線を月に戻す暁くん。




ああ…サプライズ、やっぱり嬉しくなかった…?


もしかして余計なお世話だったのかな。





“嬉しくなかった?”




「え?なにが?」




そう文字を打ち込んだケータイの画面を見て、暁くんはきょとんとした。




“サプライズ”



「まさか。すごく嬉しかったよ。今日はありがと、柚」




にこ、と完璧なスマイルを浮かべる暁くん。



けれど今はその完璧さが作り物に思えてならなかった。



“ホントのこと言って。あたしのしたことは余計なことだったの?”



「柚、違うんだ。そんなことは…」



“じゃあなんでそんな悲しそうな顔するの?”



「…っ」



この言葉を見た瞬間の暁くんの表情にいたたまれなくなって、自然と目に涙が溜まった。



自嘲的に、ひどく自分を哀れんだような悲しい顔だった。



暁くんのあんなカオは、初めて見た。



「…はは…っ、俺、そんな顔してた?」



“してた、ずっと悲しそうだった”



泣いちゃダメだと、ぎゅっと眉を寄せても、どうしてだか涙は止まらなくて、ポロリと頬を伝う雫。



いやだ、とまれ。止まってよ…


「…どうして、柚が泣くの?」


わかんないと首を振ると、暁くんの指がそっと涙を拭ってくれた。



「柚は、疲れてるんだよ。そう言えば昨日の夜倒れたばかりだったね。こんな遅くまで連れ回してごめん。帰ろう、送るよ。」



いやっ!帰らないよ!



暁くんの袖を掴んでもう一度首を振ると、暁くんは困った顔をした。



「柚?どうして…」



“暁くんが誕生日好きじゃなかったんなら、謝る。けど、暁くんが生まれてきてくれた、大切な大切な日だから。生まれてきてくれてありがとうって意味を込めて祝いたいの。あたしもみんなも、暁くんが大好きだから。”






< 296 / 450 >

この作品をシェア

pagetop