【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「…ちょっとね、酔いを冷ましてたんだ。」
そう言って、再び視線を月に戻す暁くん。
ああ…サプライズ、やっぱり嬉しくなかった…?
もしかして余計なお世話だったのかな。
“嬉しくなかった?”
「え?なにが?」
そう文字を打ち込んだケータイの画面を見て、暁くんはきょとんとした。
“サプライズ”
「まさか。すごく嬉しかったよ。今日はありがと、柚」
にこ、と完璧なスマイルを浮かべる暁くん。
けれど今はその完璧さが作り物に思えてならなかった。
“ホントのこと言って。あたしのしたことは余計なことだったの?”
「柚、違うんだ。そんなことは…」
“じゃあなんでそんな悲しそうな顔するの?”
「…っ」
この言葉を見た瞬間の暁くんの表情にいたたまれなくなって、自然と目に涙が溜まった。
自嘲的に、ひどく自分を哀れんだような悲しい顔だった。
暁くんのあんなカオは、初めて見た。
「…はは…っ、俺、そんな顔してた?」
“してた、ずっと悲しそうだった”
泣いちゃダメだと、ぎゅっと眉を寄せても、どうしてだか涙は止まらなくて、ポロリと頬を伝う雫。
いやだ、とまれ。止まってよ…
「…どうして、柚が泣くの?」
わかんないと首を振ると、暁くんの指がそっと涙を拭ってくれた。
「柚は、疲れてるんだよ。そう言えば昨日の夜倒れたばかりだったね。こんな遅くまで連れ回してごめん。帰ろう、送るよ。」
いやっ!帰らないよ!
暁くんの袖を掴んでもう一度首を振ると、暁くんは困った顔をした。
「柚?どうして…」
“暁くんが誕生日好きじゃなかったんなら、謝る。けど、暁くんが生まれてきてくれた、大切な大切な日だから。生まれてきてくれてありがとうって意味を込めて祝いたいの。あたしもみんなも、暁くんが大好きだから。”