【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
“だから、言う。暁くん、誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう、って。”
「柚…―――」
大切な、日だから。
その大切な日を、幸せに過ごしてもらいたいから。
「…っ君は、本当に、どうして。こんなにも俺の心をかき乱す…」
え…?
クシャクシャ…といつも丁寧にセットされている髪をかきあげて、重苦しく絞り出すようにそれだけ言った暁くん。
そしてもう一度目が合ったとき、いつもの柔らかい微笑みにどこか悲哀を含ませた暁くんの顔があった。
そう、違和感のない、いつもの暁くんだった。
「……俺ね、こういう時、どうリアクションしていいかわからないんだ。あんな風に、誕生日を祝ってもらったのは久しぶりだから。」
え…?
「ずっと、“お前は生まれてくるべきじゃなかった”と言われて育ってきたから。だから、おれにとって誕生日なんて祝いの日なんかじゃないんだ。」
そんな、ひどいことを…。
「だけどみんな祝ってくれて、一生懸命準備してくれたのがわかったから、だから…」
だから、…“喜んでるフリ”をした。
続きを言わなくても、あたしにはわかってしまった。
「俺はね、柚が思っているほど素直で優しい人間じゃないんだよ。自分じゃない自分を演じて、優しいフリをして、いい人ぶってるだけなんだ。」
ふわりと風で揺れた髪で、その時の暁くんの表情はわからなかった。
けれど、きっと本当の暁くんのカオがそこにあったんじゃないかって思う。
「わからないんだ、自分がどこに行ってしまったのか。ここにいる俺は俺であって俺じゃない。オルドリッジ家のいいように作り替えられた偽物だ。」