【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
残念ながら、今日は暁くんは来ていない。
数日前からまたイギリスに戻っているからだった。
“オルドリッジ家には逆らえない”そう言っていた暁くんの言葉が甦る。
予定では、明日には戻っているはずだ。
でも、もし戻って来なかったら、という不安はこの数日間常にあたしの中にあった。
いつかはイギリスに帰ってしまうかもしれない暁くん。
そのいつかが、もし今だったら。
暁くんにはもう会えないかもしれない。
暁くん、また会えるよね…?
あたしは青い空に浮かぶ、真っ直ぐな飛行機雲を眺めて強く願っていた。
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今日はリコールも定休日で、大人しく家へ帰る。
ついでに途中でスーパーに立ち寄り買い物をした。
今晩の献立は冷やし中華にしようかな。
なんて思いながら、家の鍵を開ける。しかし。
…あれ?開いてる?
やだ、閉め忘れたのかな?
不審に思いながらも家の中に入ると、男物の革靴が玄関に揃えてあった。
嘘でしょ…?
その靴に思い当たる人物を思い浮かべ、慌てて家に上がる。
そして、リビングにその人はいた。
…お父、さん。
スーツ姿でソファーに身を沈め、煙草を吸っていた父親。
その姿を見たのは、実に10ヶ月ぶりだった。
「…なんだお前、学校はどうした。」
紫煙をくゆらせ、不機嫌そうにあたしに目をやる父にどうしようもなく腹が立った。
“今日は終業式だから午前で終わり。”
それだけ答えて、買ったものを冷蔵庫にしまう。