【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
何を考えているのか、全くわからない。
久しぶりに会ったと思ったら…。
何しに帰ってきたの?
一度部屋に行き、制服からラフなTシャツとショートパンツに着替え、遅めの昼食を取ろうともう一度部屋に戻った時だった。
「…柚姫、ちょうどいい。話があるからここに座りなさい。」
…話?
なんの話が全く見当もつかず、大人しくそばの椅子に腰を下ろす。
灰皿で煙草を押し消すと、ふーと息をついて重苦しく口を開いた。
…そのお父さんの口から出てきた言葉は、あたしの予想すら出来ないことだった。
「…父さんな、再婚しようと思うんだ。」
…え?
一瞬、頭が真っ白になった。
「相手は、会社の部下で…。今、妊娠5ヶ月だ。」
視界が、暗転したようだった。
じゃあお父さんは、10ヶ月の間ずっとその人といたの?
あたしを、ひとりぼっちにして?
「それでな、柚姫。彼女と彼女との子供の為にも、なるべく広い家で暮らしたいんだ。わかるだろ?」
ちょっと待ってよ、なにそれ…?
「お前ももう大人だし、独り暮らししてみないか?マンションは俺がいい物件を探しておくから」
ひど…
それって、あたしが邪魔ってことだよね?
この家が欲しいけど、ここにいるあたしは邪魔だから追い出す気なんだ。
…こういうの、父親っていえるの?
滑稽さに、思わず頬に涙が伝った。
「柚姫、すまない…。」
そんな言葉、聞きたくない。
聞きたくないよ…。
暁くん…。
耐えきれなくなって、とうとうあたしは家を飛び出した。
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走って、走って。
どのくらい走っていたのか、もうわからない。
ただ胸が苦しくて、重くて。
まるで鉛にでもなってしまったかのようだった。
それは、走ったから?
それとも、父親に捨てられたから?