【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
ポツリと頬に水滴が触れて、あああたしは泣いているのかと思ったけど、それは涙ではなく雨だった。
その瞬間に、ザァーッとたくさんの水滴があたしの身体を濡らしてゆく。
夕立なんて、ついてないな…。
当然傘もなく、あたしはすぐにずぶ濡れになった。
…なんで、あたしはこんなに。
あたしは、こんなに弱いのぉ…っ!!
ポロポロと止め止めもなく、今度は涙があたしの頬を濡らした。
泣きなくないのに。
こんなことで泣きたくないのに。
たかが父親に捨てられたからって、今さら、なんで、泣いてしまうの…。
暁くんに会いたいと思っていたからだろうか。
あたしは無意識に暁くんの家の前にいた。
インターホンを押してみた。
けれど、やっぱりまだ戻っていないのか彼は出なかった。
脱力して、玄関の壁に寄りかかる。
そのままずるずると落ちて、足を抱えて座り込んだ。
…お父さん、今は幸せなのかな?
その女の人と子供と、幸せになれる?
だったら、あたし…家出ていこう。
お父さんには愛情というものをもらった記憶はないけれど、ここまで育ててくれたのはお父さんとお母さんだから。
どっちみち、再婚してあたしも一緒に住むなんて考えられない。
結局はそういうことになっていたんだろうから。
だったら…荷造り、しなきゃ。
暁くんは戻ってない。
ここに居たって仕方ないもの。
帰ろう、と思った時だ。
「……柚?」
え…?