【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
だいたい予想は出来ていたはずの人物に、なんで自分はこんなに動揺しているんだろう。
たぶんあたしが呆然としていたのはわずかな間だ。
すぐに表情を引き締めて、ゆっくりと頭を下げる。
でも、なんでもうこんなところにいるんだろう。
再婚の話はさっき聞いたばかりなのに、もうこの家に住むつもりなの…?
あたしの中で、いやな感情が渦巻いた。
そんなとき、女の人はあたしの予想外の行動にでる。
「…まぁっあなたが柚姫ちゃんね!可愛いっ!!これだもの、あの人があそこまで気にかけるのね!」
………へ?
引き締めたはずの表情は、瞬く間に間抜けなものへと変わっただろう。
それほどまでに、衝撃だった。
柔らかそうなキャラメルの髪を揺らして、まるで少女のように笑う彼女。
それから、可愛いだの似てる似てないだの理解不能なことを早口でまくし立て、一人で騒ぎまくる。
彼女のあまりの迫力に思わず圧され、いつの間にか引きつった笑顔を浮かべていた。
しかしそれもようやく終わりを迎える。
「佐々原くん、鍋。」
「…きゃあっ大変っ!!忘れてたわ!」
父の声がしたと思った途端、女性―――佐々原さん?は大慌てでキッチンへと消えた。
彼女に乱された髪を整えるのも忘れて、放心するあたし。
な、なんなの、あの人…。