【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「…柚姫、俺は…―――」
父が言葉の続きを言う前に、あたしは父に背を向けていた。
そのまま階段をかけ上がる。
このままじゃ、いけないと思ったからだ。
部屋で見つけた目的のものを手に一階に戻ると、お父さんははた目からでもわかるほどホッとした顔をした。
どうやらあたしが会話を拒否し、部屋に閉じ籠ってしまったのではと心配したみたいだ。
そしてあたしが手にするものを見て、微かに声を震わせた。
「…俺と、話をしてくれるというのか」
あたしが会話をするときに使う、B5サイズのマグネットボード。
磁気で文字を書くそれは、あたしにとっては必需品。
それを取ってくるというのは話をする意志があたしにはあるというわけで、とりあえず父は察してくれたみたいだ。
“色々、聞きたいことがあって。”
父は静かに頷いて、次の言葉を書き終えるのを黙って待っていてくれた。
“彼女はどうしてこの家にいるの?”
「いやそれには事情があってだな、彼女が“事の原因は私でもあるのだから、黙って待っているなんて出来ない”と…。」
それがどうして家に来て料理を作って、さらにはあたしを撫で回すことになるのかわからないんだけど。
「それから、彼女に怒られたんだ…。」
…怒られた?
お父さんが?
あたしが目を見開いて父を見つめると、父は慎重に言葉を選びながら口を開けた。