【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「柚姫が家を飛び出していったあと、彼女に電話をした。とたんに、叱られた。“話をするからと言ったのに、娘さんの話を聞かずに話を進めてどうするんですか”だと。」
え…彼女が?
「そりゃあもう、酷いもんだった。あんなに怒られたのは新人時代ぶりだった。」
くっくっ、と喉をならして笑う。
お父さんの笑っているところを見るのは、ひどく久しぶりだった。
「俺はバカだ。お前の声が出ないから話は出来ないと思い込んで、一人で決めて一人で話して。」
お前はちゃんと、言いたいこと言えるのになぁ。
そんな父の言葉が、深く胸に染み込んだ。
「その方法がお前には一番いいと思って決めたことだった。なのに、なぜ泣かれたのか始めはわからなかった。」
けれど、と言葉を繋ぐ。
「彼女に言われて初めて事の重さに気付いた。俺はお前を守ったつもりで、突き放していたんだな…。たったひとりの、娘なのに」
な、なにこれ…
いやだ、ちょっと…
これではまるで、お父さんはあたしのことを…。
「俺のことを嫌っているお前に、一緒に住もうなどと酷なことも言えず、この家に残しておくのも忍びないと思ったからああいう決断をしたんだが。」
そんな、まさか…
「彼女に言われたよ。父親を本当に嫌う子がいるものか、と。本当に、そうなのか…?」
悲しそうな父の目に、胸がいっぱいになった。
どうして、どうしてそんなことを今頃…。