【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「俺は今まで仕事人間で、家庭内のことはすべて柚葉に任せてきた。」
お母さん…。
「言い訳をすると、お前に好かれている自信もなく、どう接していいかもわからず、今までほったらかしにしてしまった。」
お父さんは、膝の上で握りこぶしに更に力を込め、ゆっくりと頭を下げた。
「…今まで、すまなかった。」
…お父さん。
“あたしこそ、お父さんに嫌われていると思ってた”
「父親が娘を嫌うなんてあるわけ…!!」
お父さんはそこまで言ったあと、はっと我に返り、ゆっくりとソファーに身を沈めた。
「…俺は今まで、何を見てたんだろうな。いや、何も見えていなかったのか。」
お父さん…。
お父さんの、働く大きな固い手をぎゅっと握りしめた。
「柚姫…。」
ニッコリと…ううん、出来てなかったかもしれないけど。
それでもあたしは精一杯の笑顔を、お父さんに向けた。
“幸せに、なってね。”
「柚姫」
“あたしは、やっぱり家を出るよ。二人の幸せの邪魔はしたくないし。”
お父さんが眉間にシワを寄せた時、キッチンから明るい声が響いた。
「ご飯、出来ましたよー!」
まるで見計らったようなタイミングの良さだった。
たまたまなのかもしれないけれど、ニコニコ笑う彼女なら狙ったかも知れないと思わされた。
「ぶちょ…お父様と、和解出来たかしら?」
“お陰さまで、なんとか。父のこと、よろしくお願いします”
慣れないはずの筆談にも見事に彼女はリズムを掴み、あたしは彼女に気を許すのにそう時間はかからなかったように思う。