【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
彼女の料理はとても美味しく、久しぶりに誰かの手料理をごちそうになれた。
彼女はとても不思議な人だ。
お父さんの前妻の子供、つまりあたしになぜここまで親身になれるのだろう。
普通は邪険に思うか、嫉妬したりするものではないのだろうか。
しかし彼女は屈託なくいい放つ。
「だって柚姫ちゃん可愛いんですもの。悪い子じゃないし。変なこと聞くのね?」
父は、すごい人と結ばれたようだ。
彼女はあたしと父の不和を見抜き、不器用だと表現した父の背中を押してくれた。
彼女がいなければ、あたしも父もすれ違ったままだった。
こうも上手く問題が解決して不思議に思う矢先、まさかあんなことがあるなんて。
この時のあたしは、想像もしていなかった…。
けれどそれは、もう少し先の出来事だ。
その後、料理を片付けて彼女は帰っていった。
変な人だったけれど、不思議と人を惹き付けて止まない人だ。
彼女とならお父さんも、幸せになれるよね?
あたしの心は、晴れやかだった。
その日の夜、昔のことを思い出していた。
お母さんが、お父さんの話をしているときのものだ。
『お父さんはね、すっごく不器用な人なの。』
『ぶきよー?ぶきよーってなに?』
まだ幼かったあたしには不器用の意味がよくわからなかった。
そんなあたしに、確かお母さんは“上手く優しさを見せられない”とかなんとかと説明してくれた気がする。