【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
今日も結局、遅い時間まで居残った。
けれど、メニューの方はまだイマイチ物足りない。
家でも色々やってみようかな。
あの家を出てからもう2ヶ月近くたつ。
独り暮らしにもだいぶ慣れた。
たまに佐々原さん…じゃなくて美雪(ミユキ)さんにお呼ばれしてご飯をごちそうになったりしている。
その度に一緒に住もうとか言われるんだけど、首を縦に振ったことはなかった。
別に美雪さんもお父さんも嫌いじゃない。
けれど、そんな気持ちにはとてもなれなかった。
頑固で意地っ張り。
嫌なあたし。
「柚ーっ!帰るんでしょ?一緒に帰らない?」
そんなとき、ポニーテールを揺らしながら優輝ちゃんがやって来た。
ニコニコ笑う彼女の頬にチョコレートがついていて、思わず吹き出してしまう。
「あっ、なに笑ってるのよぅ。」
ちょっとだけむくれた優輝ちゃんが可愛くて、頬が緩んだままティッシュで頬のチョコを拭くと、次の瞬間には一気に顔が真っ赤になっていた。
「えっうそうそ!なにかついてた!?」
やだー!と優輝ちゃんは拭くのに使ったティッシュの汚れを確認する。
「ぐはっ!チョコとか…!!あああ、心当たりがぁー…」
…どうやら、同じくメニュー担当の優輝ちゃんが味見ばかりしているという噂は本当らしい。
「ないわ、あたし。どれだけの人とすれ違ったのよ、チョコついた顔で!!」
優輝ちゃんの落胆ぶりにまた吹き出して、彼女を更にむくれさせたのは言うまでもない。