【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
お久しぶりですの意味も込めて軽く頭を下げて微笑むと、原田さんの顔にも笑顔が広がる。
「久しぶりだな。元気そうで安心したよ。今お茶淹れるからそこに座って待っててくれるかい?」
原田さんといい暁くんといい、みんなお茶好きだな。
思わず口が緩む。
原田さんに勧められた椅子に座ると、反対側の今まで原田さんが座っていた場所には無造作に新聞が置かれていたのが目についた。
あ、原田さんも新聞読むんだー…。
なんか、意外。
「今、俺でも新聞読むんだ、とか思ってただろ。」
後ろから聞こえた声に、ギクリと肩が跳ねた。
すでに手にティーカップを手にした原田さんがいて、あたしは笑って誤魔化す。
「ったく、俺だって新聞くらい読むんだぜ?もう30過ぎのおっさんだしな。」
なんて自嘲的なことを言う原田さん。
慌てて手をふって否定すると、途端にニカッと少年っぽく笑った。
「ちょっと仕返しした。これで喧嘩両成敗、な。」
…負けました。
あたしもつられて笑うと、原田さんはいい香りの紅茶をあたしの前に置いてくれた。
「で、どうした?オジサンにお悩み相談かい?」
まだ仕返し続いてる?
と思ったけれど、違うらしい。
原田さんはわざと軽い口調であたしを和ませようとしてくれているみたいで、遠慮なくボードにペンを走らせた。
“暁くん、最近どうですか?”
「アキか?そうだなぁ、どうって言われると…。」
頭をガシガシと無造作に掻いて、ゆっくりと口を開いた。