【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐




いつもの暁くんは、優しい匂いと甘い香水の香り。



暁くんの匂いは、すごく安心するものだった。




けれど今は、アルコールと煙草の匂いが染み付いている。




廊下の奥の、開け放ったままのドアからはリビングが見えて、薄暗い部屋にたくさんのお酒のビンや缶があるのが見えた。




暁くん、あれ1人で飲んだの…?




さっきしゃべり方が変だと思ったのは、酔って呂律が回ってなかったかららしい。




依然暁くんに抱き締められたままだし、この部屋を何とかしなくちゃと、離してもらおうと身をよじる。




「…ん、だめ。離さないよ……」



けれど、さらにきつく抱き締められてあたしの心臓がバクバクと跳ねた。




甘い吐息が耳をくすぐり、力が抜けそうになる。



そんないい声で、耳元で甘く囁くのは、やめてほしい…。




「…柚、柚。好きだ、誰よりも好きだ…」




ちょ…っ、暁くん…!?




突然の言葉に、あたしの身体から抵抗する力も抜ける。




「ずっと、会いたいって思ってた…。まるで、柚は俺の願いがわかるみたいだね」




そ、そんなのあたしが会いたかったから来ただけなのに…





「柚…」




ちゅ、と頭にキスが落とされた。




たったそれだけであたしの身体はピクリと反応する。




そのまま、暁くんの熱い唇は耳をかすめ、耳朶を甘く噛み、こめかみに触れた。




ちゅ、ちゅ、とキス音が直接あたしの耳に届いて、恥ずかしい。




だんだんと、足に力が入らなくなってきた。



けれど、がっちり暁くんに支えられて逃げることも座り込むことも出来なくて。




心拍数がどんどん上がって行く。






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