【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
や、やだ、どうしよう…。
最後の力で小さな抵抗を試みると、あっさり暁くんの唇は離れる。
けれどすぐにまた、きつく抱き締められた。
熱く荒い吐息が、あたしの耳元を再びくすぐった。
「…俺ね、いくら飲んでも酔えないんだ。飲んでも、飲んでも飲んでも忘れられない。忘れたいのに、どうしてなんだろうね…。」
暁くん…?
暁くんのおかしな言動に思わず抵抗するのをやめて、黙って聞き入る。
「決めたはずなのに。最初からわかってたんだ、こうなることくらいは…。でも、予想以上に、つらい」
暁くんが、今にも壊れてしまいそうだと思った。
こんな暁くんは知らなくて、どうしていいのかわからない。
けれど、暁くんが泣いているような気がして、そっと広い背中に腕を回した。
「…幸せも自由も、知らないままでいたら良かった。いずれ失うのがわかってて、俺は幸せに浸りすぎた。俺は、幸せになってはいけなかったのに…」
まるで、ちょっと前のあたしみたいだった。
苦しくて辛くて、でもその時暁くんは黙ってきつく抱き締めてくれて。
だからあたしも力を込めると、身体を離した暁くんが虚ろな瞳でじっとあたしを見つめた。
頬を撫でられ、あたしもまっすぐ暁くんを見つめ返す。
けれどその時の瞳の色が、部屋の中が暗いせいか黒く見えて、一瞬目を見張った。
「…柚、ごめん。」
え?とあたしが反応する前に、ふわりと身体が抱き上げられた。