【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐




や、やだ、どうしよう…。




最後の力で小さな抵抗を試みると、あっさり暁くんの唇は離れる。



けれどすぐにまた、きつく抱き締められた。




熱く荒い吐息が、あたしの耳元を再びくすぐった。




「…俺ね、いくら飲んでも酔えないんだ。飲んでも、飲んでも飲んでも忘れられない。忘れたいのに、どうしてなんだろうね…。」




暁くん…?




暁くんのおかしな言動に思わず抵抗するのをやめて、黙って聞き入る。




「決めたはずなのに。最初からわかってたんだ、こうなることくらいは…。でも、予想以上に、つらい」




暁くんが、今にも壊れてしまいそうだと思った。



こんな暁くんは知らなくて、どうしていいのかわからない。




けれど、暁くんが泣いているような気がして、そっと広い背中に腕を回した。






「…幸せも自由も、知らないままでいたら良かった。いずれ失うのがわかってて、俺は幸せに浸りすぎた。俺は、幸せになってはいけなかったのに…」




まるで、ちょっと前のあたしみたいだった。



苦しくて辛くて、でもその時暁くんは黙ってきつく抱き締めてくれて。




だからあたしも力を込めると、身体を離した暁くんが虚ろな瞳でじっとあたしを見つめた。




頬を撫でられ、あたしもまっすぐ暁くんを見つめ返す。




けれどその時の瞳の色が、部屋の中が暗いせいか黒く見えて、一瞬目を見張った。




「…柚、ごめん。」




え?とあたしが反応する前に、ふわりと身体が抱き上げられた。





< 336 / 450 >

この作品をシェア

pagetop