【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「まず、謝らせて。…一昨日は、ごめん。どうかしてた」
思い切り見上げないと見えない、隣を歩く暁くんの顔をじっと見つめた。
今日は、いつものブラウンの目だった。
いつもよくセットされたチョコレート色の髪が、風に乗ってふわふわと揺れる。
「まさか柚が来てくれるだなんて思わなかった。本当に、ごめん。みっともない姿をさらした上、あんなこと…。」
ゆるゆると首を振った。
「優輔に怒られたよ。お前は何をやってるんだ、ってね」
困ったように笑う暁くん。
暁くんの笑ったところを見るのは、久しぶりのような気がした。
「それと、お味噌汁ありがとう。美味しかった」
食べてくれたんだ。
嬉しくて、あたしの顔にも笑顔が広がる。
「…それで、俺に話があってわざわざ来てくれたんだったね?」
ああ、そのことをわざわざ聞くために…。
“暁くん、何か悩み事があるんじゃないかと思って”
「…そっか。」
“あたし、何か力になれないかなって。”
「うん。」
“つらいことあるなら、言って?できる限り力になるから”
「ありがとう。でも、ごめん。今は悩みなんてないよ」
…嘘だ、と直感した。