【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐




ごしっと涙を拭って、暁くんをじっと見つめ返す。




「本当だよ、嘘はつかない。柚にもみんなにも、確定してから言うつもりだったんだ。」





暁くんのその言葉を信じることにした。




こくり、と小さく頷くと暁くんもようやくいつもの表情に戻る。





「じゃあ、俺はこれで。」




その言葉に、はっと気づけばもうここはマンションの前だった。




「またね」





くるりと踵を返して、今来た道を戻って行く暁くん。




ピンと背筋を伸ばし、長い足でスタスタと歩く姿がすごく綺麗だった。




なんとなく、この後ろ姿を見るのは最後のような気がしてならなかった。




暁くんはその時になったら言うと言ってくれたのに、どうしても不安な気持ちは拭えなくて。



気が付いたら小走りでその背中を追いかけて、服の袖を掴んでいた。




「柚?」




掴んだはいいけど、何を言うか考えていない。



ほとんど衝動的な行動だった。




ただ直感で、このまま別れたら後悔するような気がした。





< 347 / 450 >

この作品をシェア

pagetop