【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
ごしっと涙を拭って、暁くんをじっと見つめ返す。
「本当だよ、嘘はつかない。柚にもみんなにも、確定してから言うつもりだったんだ。」
暁くんのその言葉を信じることにした。
こくり、と小さく頷くと暁くんもようやくいつもの表情に戻る。
「じゃあ、俺はこれで。」
その言葉に、はっと気づけばもうここはマンションの前だった。
「またね」
くるりと踵を返して、今来た道を戻って行く暁くん。
ピンと背筋を伸ばし、長い足でスタスタと歩く姿がすごく綺麗だった。
なんとなく、この後ろ姿を見るのは最後のような気がしてならなかった。
暁くんはその時になったら言うと言ってくれたのに、どうしても不安な気持ちは拭えなくて。
気が付いたら小走りでその背中を追いかけて、服の袖を掴んでいた。
「柚?」
掴んだはいいけど、何を言うか考えていない。
ほとんど衝動的な行動だった。
ただ直感で、このまま別れたら後悔するような気がした。