【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
けど、と気を引き締めて目の前の男子を睨み付けた。
「って、へぇ。誰かと思ったら、此花じゃん。」
え…?
どうしてあたしの名前を知ってるんだろう、と思ったところで気付く。
彼は同じ中学だった人だ。
名前は、思い出せないけれど。
「ふぅん、元はまあまあだったけど、化けるもんだな。」
なんか失礼な言い方。
「しかも、肝が座ってるっていうか。普通、女がこんなマネしないだろ。」
女だって、助けたいと思うときくらいあるよ。
「まぁ、お前でもいいや。一緒に回ろうぜ」
はぁ?
なにその、でもいいやって!
なんだか腹が立って、精一杯睨み付けるとそいつはニヤリと笑う。
こんな人に構ってなんかられない、と保科さんの手を引こうとした時だった。
パシッ
手が振り払われたかと思うと、今まで掴んでいた保科さんの手は離れていて、彼女はダァーッと逃げてしまった。
あたしを一人置いて。
…って、ええーっ!?
嘘でしょ保科さん!!
どんどん小さくなっていく背中を愕然としながら見ていると、あの男子がケラケラと笑った。
「お前、わざわざ友達助けるのに首突っ込んだのに、その友達にあっさり見捨てられてんじゃねーか。」
友達、ってわけじゃないけど…。
正直、かなりショックだった。
まさか、そんなあっさり見捨てられるなんて。
うぅ、保科さん…。