【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐




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「検査の結果、発声筋に異常は見られませんでした。」




白衣の先生が、難しそうな顔をしながら言った。




「ただし、3年も声をだしていなかった為に喉の筋肉が衰えています。以前のように声を出す為には、リハビリが必要ですね」




「…は、い。」




あたしは、かすれた声でようやく返事をした。




「しかし、不思議だ。」




先生は、頭をガシガシとかいて診断書とにらめっこする。




「そんな状態で、よく大声を出せたものだ…。普通は出ない。それに君の声が出なきゃ、もしかしたら君か彼のどちらかは亡くなっていたかもしれない」





自分が事故にあいそうなとき、咄嗟に自分の意思で避けられない場合がある。




頭が真っ白になってしまい、身体が動かなくなるからだった。



以前のあたしもそうだったし、暁くんもそうみたいだった。




だけど、あたしが彼の名を呼ぶことで彼は我に返り、車道にいたあたしを引っ張り上げることが出来た。




じゃなきゃ、あたしは…。




「不思議です。医学的にはありえない。奇跡としか言いようがありませんよ」




奇跡…。




先生にお礼を言って、あたしは診療室を出た。





あの事故で頭を打っていた暁くんは、駆けつけた救急車に乗せられて、大事をとって今日はここに入院することになっている。




病室をノックして、しばらく待っても返事がないので勝手に開ける。




真っ白な部屋で、暁くんは静かに寝息をたてていた。





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