【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
―――白い、白い場所だった。
ただ一面が白くて、自分がどこにいるのかすら見当がつかない。
俺は何をしていたんだったか、考えても朧げにしか思い出せない。
ただ、確か…。
ずっと待ちわびた声が、俺の名を呼んでくれたのを覚えている。
“っ暁くん!!!”
ああ、そうか。
あの声は…―――。
「…柚を助けてくれて、ありがとう。」
ふいに聞こえた、女の子の声に辺りを見渡す。
しかしどこにもそんな姿はない。
「君は誰だ?どこにいる?」
「柚とあなたのそばに、いつも。」
いつも?
そんな人物に、心あたりは無かった。
でも、優しいホッとする声だと思った。
「こっち」
遠くにぼんやりと見えた姿に、どこか見覚えがあった。
小柄な身体にセーラー服、キャラメル色のショートヘアに、つり目がちだけどパッチリとした大きな目、優しい笑顔…。
彼女は…―――。
「柚の歌、守ってあげてね。あたしはもう出来ないから」
「え?それはどういう…――。」
「あたし、もう行かなきゃ」
俺の言葉を聞かず、彼女はくるりと踵を返しどこかへ歩き去ろうとする。
「待って…!君は…―――」
「…じゃあね、暁くん?柚のことお願いね」
にこっと微笑んだ彼女は、段々と光の中へ消えて行く。
けれど一度ピタリと止まって、ああ!と声を上げた。
「最後に、言い忘れ。」
くるりと振り向いた彼女は、ぱっと花が咲いたように明るい笑顔になって、その一言を告げた。
「あたしが守ってやったもの、大切にしなさいよってあの子に言っといて。」
「え…っ」
「あたしはいつまでもあの子の、世界一のファンだから。」
その笑顔を最後に、彼女は光の中に溶けて消えた…。