【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐







―――白い、白い場所だった。




ただ一面が白くて、自分がどこにいるのかすら見当がつかない。




俺は何をしていたんだったか、考えても朧げにしか思い出せない。




ただ、確か…。




ずっと待ちわびた声が、俺の名を呼んでくれたのを覚えている。




“っ暁くん!!!”




ああ、そうか。



あの声は…―――。









「…柚を助けてくれて、ありがとう。」




ふいに聞こえた、女の子の声に辺りを見渡す。



しかしどこにもそんな姿はない。




「君は誰だ?どこにいる?」




「柚とあなたのそばに、いつも。」




いつも?



そんな人物に、心あたりは無かった。



でも、優しいホッとする声だと思った。





「こっち」




遠くにぼんやりと見えた姿に、どこか見覚えがあった。




小柄な身体にセーラー服、キャラメル色のショートヘアに、つり目がちだけどパッチリとした大きな目、優しい笑顔…。




彼女は…―――。






「柚の歌、守ってあげてね。あたしはもう出来ないから」




「え?それはどういう…――。」




「あたし、もう行かなきゃ」





俺の言葉を聞かず、彼女はくるりと踵を返しどこかへ歩き去ろうとする。





「待って…!君は…―――」




「…じゃあね、暁くん?柚のことお願いね」




にこっと微笑んだ彼女は、段々と光の中へ消えて行く。




けれど一度ピタリと止まって、ああ!と声を上げた。




「最後に、言い忘れ。」




くるりと振り向いた彼女は、ぱっと花が咲いたように明るい笑顔になって、その一言を告げた。




「あたしが守ってやったもの、大切にしなさいよってあの子に言っといて。」




「え…っ」




「あたしはいつまでもあの子の、世界一のファンだから。」





その笑顔を最後に、彼女は光の中に溶けて消えた…。







< 394 / 450 >

この作品をシェア

pagetop