【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
ふっと目を覚ますと、夢の中とは違う白い天井が目に入った。
周囲を見渡してから、そこは病室らしいと結論付ける。
窓からはすっかり茜色に染まった空が見えて、キツイ西陽が射し込んでいた。
眩しさに目を細め、ゆっくりと上半身だけ起き上がる。
その時はじめて気が付いた。
柚…。
俺の右手を柔らかく握りしめ、ベットの隅に頭を乗せて眠り込んでいた。
数ヶ月前と何一つ変わらない彼女に、胸が苦しくなる。
気持ち良さそうな、無防備な寝顔から目が離せない。
…あんなに愛しくて仕方なかったのに、どうして俺は。
我慢出来ず、そっと柚の髪を撫で、頬を撫でる。
くすぐったそうに身動ぎする彼女が、堪らなくいとおしい。
このまま寝かせておいてやりたいというのに、吸い付いたように手を離すことが出来ない。
…あの時から、もう俺の決心は固まっていた。
ただ俺は、何もかもが遅すぎた。
俺が弱いばかりに、柚をあんなに傷付けた。
今さらすぎるだろうか…。
もう俺は、柚に愛想を尽かされてフラれるかもしれない。
信じてもらえないかもしれない。
だから決めた。
嫌われても、すべてを柚に話そうと。
もう二度と、大切なものは手放さない。
…絶対に、約束は守るから。
だからどうか、見守っていてくれ。
赤い空に向かって、そう祈った。
その空の向こうにいる、彼女に向けて…―