【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
髪を撫でられる、心地よい感覚で目が覚めた。
温かくて優しいこの手を、あたしは知ってる。
あたしの大好きな、大好きな。
あの人の、手…―――。
ゆっくりと目を開けた時、優しいブラウンの目がこちらを見つめていた。
「…おはよう。」
にこ、と彼は微笑むけれど、夢なのか現実なのかあたしには理解出来ない。
ふわりと髪を撫でられて、頬を掠め、ようやくあたしはこれが夢ではなく現実なのだと気が付いた。
はっ、と顔をあげて慌てて起き上がる。
あたし、いつの間に…。
不意討ちに、あたしの顔も熱くなる。
久しぶりの感覚だった。
「ごめんね、起こしてしまったね」
いつも通りすぎる暁くんに、戸惑いを隠せない。
二ヶ月前のことが、まるで嘘のよう。
あたしが戸惑っているのに、さすがに暁くんも気付いたのだろう。
それまでの微笑みを、スッと消して真剣な顔付きになる。
「…今までのこと、謝らせてほしい。」
そっと、視線を外した。
「もう誤魔化さないし、逃げない。柚を傷付けない。約束する。」
なんで、急に…。
今度はゆっくりと、暁くんに視線を戻す。
「今まで俺は、自分の秘密を守るために君たちを傷付けた。けど、もういいんだ」
もういい、ってどういうこと…?
あたしの心配そうな様子に気付いたのか、暁くんはフッと力なく笑った。
「もう決めたんだ。俺は、オルドリッジを捨てる。」
え…?