【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「…俺はオルドリッジに恩がある。けど、俺はずっとあの家が嫌いだった」
もしかしてこれは…あたしが、ずっと知りたいと思っていた話なの?
一語一句聞きもらさないように、意識を集中させて耳を傾けた。
「言ったよね、俺と沙夜がまだ幼い頃に両親は不幸な死に方をした」
確か、強盗に…って
「それは、俺のせいだとオルドリッジの人たちは思っているんだ」
どうしてそれが暁くんのせいに…?
理不尽な話の気配に、あたしは眉を潜めた。
「…ここからは、すごく長い話になる。聞きたくなかったら別にかまわない。ただ、君が俺を必要としてくれているなら、聞いてほしい」
そんなの、決まっている。
「今までのこと、本当にごめん。遅すぎるかもしれないけど俺には、君が必要だとようやく気付いた。」
暁くん…
「俺は、柚が好きだ…――――。」
傷付けられて、離れて。
それなのに、あたしはどうしようもなく胸がいっぱいになって、涙が溢れた。
ひどいことを言われても、どんなに時間が経ってもあたしの心の中いっぱいにあったのは、暁くんの存在だった。
暁くんがくれたもの、すべてが色褪せることなく、あたしの中でキラキラと輝く宝もの。
それが、何よりの好きのあかし。
「あ、たし…も。」
「え?」
「何を言われても、何があっても。暁くんを、嫌いになんてなれなかった…。」
変わらない想いは今、ようやくあたしの言葉で…―――。
「暁くんが…好き。」
言い切ったと同時に、暁くんに強く強く抱き締められた。
今までにないほど、強く。
「…ずっと、その言葉を待ってた―――。」
暁くん…。
そしてあたしも、暁くんの広くて固い背中に腕を回した。
あたしたちにあった、どうしても埋められなかった溝を埋め合うように…。